HONESTY
盛らない美学。
正直に、誠実に語る。
「正直・誠実」という花言葉を持つ桔梗(キキョウ)。諸説あるが、古くは万葉集の中で山上憶良(やまのうえのおくら)が詠んで「秋の七草」に数えられた「朝貌の花(アサガオノハナ)」がこの桔梗のことだという説が有力らしい。われわれが小学生の頃、夏休みの宿題で「朝顔の観察絵日記」を書かされたのを思い出すが、その朝顔は桔梗とは異なる外来品種らしい。この桔梗は、近年その個体数が減少しており、絶滅危惧植物にも指定されており、「正直・誠実」という言葉を表すこの花の存在が儚(はかな)く、危ういというのは遺憾だが、一方で今の時代にそれが希有なものとなっていることも事実であり、なんとも皮肉な状況と言えなくもないだろう。
人間関係においても相手に対して正直であること、誠実であることは大切だ。人は出会ってからも、結局は相手の本質に迫ろうとする。表面的な人となりではなく、その性格や思考を知ってこそ、より深い付き合いができるはず。出会いのタイミングで虚飾があってはならない。とはいえ、最初の出会いにおいては気合いが入り過ぎ、そのいでたち、あるいは発言においてもとかく盛り気味にしてしまうのはありがちなことだ。「人は見た目が9割」というベストセラーもあるが、第一印象の影響は大きく、その重要性を否定することはできない。1971年に米国・カリフォルニア大学の心理学名誉教授であったアルバート・メラビアンが提唱した「メラビアンの法則」がこの考え方のベースとなっているといわれるが、確かにここではその見た目と話し方でコミュニケーションの成否は9割決まるとされている。話している内容がいかに思慮深いものだったとしても、その比重は1割にも満たないという残念な結果があるのだ。しかしこれは、ある特定の目的を持ったコミュニケーションにおける所作と考えた方がいいのかもしれない。常に全ての会話にプレゼンテーションさながらの熱量で臨まれても受け手は疲弊する。自分に正直・誠実であるということは、飾らず、本来の自分を見てもらうことであり、それでこそお互いに気を使わない、しかし信頼感ある付き合いができるというものだろう。
例えば、昨今のニュースで見かける「自撮り写真の盛り過ぎ」問題を考えてみる。ちょっと写真写りをよくするための撮影テクニックはカメラマンとしては当たり前の工夫であろうが、それがデジタルテクノロジーで際限なく加工でき、ひいては元の面影をほとんど残さないものになってしまうのはいかがなものだろう。その時々の遊びであれば良いし、素顔の写真は恥ずかしいとそれを残したくないという意見も確かにある。しかし加工写真ばかりを撮影・保存していた若者が、ふと気付いたときには「学生時代の友達の自然な写真が存在せず、もはやどんな顔だったか思い出せない」というなんとも悲しいコメントを耳にしたときには少しおかしな状況になっているのかなとの疑問もよぎった。人により良く見られたいという欲求は極めて自然と思いつつ、それが行き過ぎた状況は、実は逆に自身のプライドを自ら傷つけることとなる。それはありのままの自分を受け入れられない状況に自身を追いやってしまうからであり、素の自分に戻るタイミングを失ってしまうことも多いようだ。「少しだけ盛った自分」に「いいね!」が集まれば、それ以上を演じたくなるのは必定。それが度重なることで、幾重にも虚飾されたイメージが定着していき、そのうち現実的にそれを演じ切れなくなると、己の真の存在を否定することになる。ひいては自殺などに追い込まれてしまうという分析もある。そしてそれは、今手にしているスマホ、あるいは自撮り加工アプリへの依存性によるところが大きいという。日々の生活を楽しくするためのテクノロジーとして定着してきたこれらの製品・サービスが、社会問題として拡大するメンタルヘルスの不調の引き金になっていようとはなかなか気付けないものだ。これは日本だけでなく世界各国で顕著になってきている。実際、アメリカにおいても10代の若者の間に近年、うつ病と自殺が増加しており米疾病対策センター(CDC) によれば、うつ病の患者と自殺者は2010~15年にいずれも増加、特に10代女性の自殺率は5年間で65%上昇。重度のうつ病になる女性も58%増えている。ちなみにスマホを毎日5時間以上使っている若者たちの約48%は、自殺について考えたことがあるか、またはその計画を立てたことがあった。それに対し、使用時間が1日当たり1時間の場合、こうした考えを持った、計画した、という人は28%だった。スポーツや宿題をする、友人と実際に会う、教会に行く、などに時間を多く費やしていた若者たちは、うつ病と自殺のリスクがどちらも低かった。問題は、この年代の若者たちがインスタグラムやスナップチャットを使い、多くの場合は「大幅に盛られた」情報に接触していること。ウソではないが、極端にデフォルメされた他の人々の華美な世界観に対して、自分自身の生活を比較することにより、自信喪失し、メンタル不調に陥るのではないかと考えられている。
カンヌライオンズの受賞エントリーにも同様の社会問題に警鐘を鳴らした取り組みがある。それがユニリーバ社のブランド、Doveが実施している「Reverse Selfie」だ。
Reverse Selfie


Doveの調査によると、女性たちの多くはデジタルメディアからの特定の情報でその自尊心を失うという。先述したとおり、他者の過度に盛られた容姿と自身を比較し、自信をなくした末にへこんでしまうわけだ。その結果、彼女たちの80%が13歳までにいわゆるレタッチアプリ(画像を加工し、目を大きくしたり鼻を高くしたり、あるいはスタイルを細身にしたりする)を使うようになっているという。そしてその行為が当たり前の習慣となり、その行為から抜け出せなくなるのだ。すなわち「ありのままの自分」をさらけ出せない、切羽詰まった状況に陥るということ。すでに積み重ねてきた行動により、引き返せない状態にまで煮詰まってしまっているわけだ。Doveはこれを問題視し、このような行為を繰り返し、自信喪失のスパイラルにはまっていく女性たちに「自身に正直であること」を推奨する「Self-Esteem Project」を立ち上げており、そのリーダーカンパニーとして2030年までに世界中で2億5000万人の若者に自分の容姿に自信を持ち、ポジティブに活動する意識を持ってもらえることを目指している。
昨今の若者層はスマホ、ソーシャルメディアのアプリ等でバーチャルな場所でのコミュニケーションに終始しがちだ。そして属するオンラインコミュニティーで、時のトレンドに身を任せ、誰にも相談せずに深みにはまっていく。別段、そのバーチャルなコミュニティーであってもポジティブなやりとりがされているなら問題ないのだが、そこにはレタッチアプリの提供企業などから「押しつけの美」が提示されている。それは脅迫的圧力と言ってもいいくらいのものだ。世の中は「このような見た目を美として捉える」という勝手な決めつけにあふれている。誰が決めたか知らないが、望まれる最終形態があまりに具体的にそこに示されている以上、少女たちは一直線にその容姿を目指してレタッチを繰り返していく。そしてそれは決してフィジカルなものではなく、あくまでデジタル上の操作でしかない。そして、加工した自分の容姿はそのままアバターのようにバーチャル世界で拡散していくわけだ。自分でありながら、自分と懸け離れた容姿で、その存在は勝手にその活動領域を広げていき、あるときそのコントロールが利かなくなってしまう。まるで自分の存在を乗っ取られてしまったように。ただこの現象は自分自身で問題を理解し、正しい方向を見つけねば抜け出せない症状でもあり、その処方箋を見つけるのは難しい状況だった。
そこで「Self-Esteem Project」が仕掛けたのは各人の行動の振り返りの機会を提供すること。勉強でも仕事でも、なにが良くてなにが悪かったのか、を知るには自分の行動を振り返り、反省することが一番効果がある。実際にそれらの悪循環に巻き込まれている9~13歳の一般女性を起用し、日頃何げなく行っているレタッチアプリによる容姿加工のプロセスをリアルに映像記録しつつ、その加工後の姿が本当の自分を表すものなのかどうかを自身で考えてもらうきっかけとした。レタッチプロセスはゲームのように面白おかしく、時間を忘れるくらいに進んでしまうわけだが、その「ビフォー/アフター」を並べて自分で見てみたらどう思うのか。果たして、それが本当の自分自身だと言い張ることができるのかを自分に問うてもらったわけだ。
このプロジェクトは世界20カ国で展開され、60億回のインプレッションを世界で達成。ティーンのセルフィー文化の浸透によって起こっている、行き過ぎたフィルターアプリでの加工について、それが自分に有用なのかどうかを考えさせ、「リアルな自分の容姿への自己肯定感(self-esteem)」を向上させることに成功している。キャンペーンを仕掛けたDoveブランドで言えば、そのブランドへの親和性を感じた人は44%から65%へ、また「自分の外見をポジティブに感じられるようになった」女性が50%から58%へと伸長、Doveの製品販売額は11.9%増加するなど、マーケティング的な成果にもつながっている。これはまさに昨今の「ブランド・エンゲージメントがその売り上げにも寄与する」ことの顕著な表れとも言えよう。生活者は何かを一方的に提供してくれる存在よりも、何かの課題を共有し、その解決に並走してくれる存在を今求めているのだ。そしてその取り組みにはもう一つ先があり、これらの取り組みを親子で行えるよう「Selfie Talk」というキットがDoveから同時期に配布されている。このツールキットは米国では4万件以上ダウンロードされ、約18万人の生活者にプラスの影響を与えたと算出されており、また学校における教育ツールとしても採用するところが出てきている。
正直であることは、いわばありのままをさらけ出すということにもつながる。それは意図的に飾らない自身を見せるということもあろうし、意図無く、しかし見たままが、たとえ疲れ切った姿をしていようが、一番その人の美しさを表しているということもある。続いても2020年3月、Doveが仕掛けたコロナ禍における「ありのままを讃(たた)える」活動について触れたい。それが「Courage is Beautiful」キャンペーンだ。
Courage is Beautiful


この時期、世界中の医療従事者は、未知なるウイルスに対し、他の人々を救うために不眠不休で働き続けた。まだ完全に解明されていない病気に感染する危険にさらされつつもだ。Doveは彼らをサポートするため、当時とても必要とされたせっけんや手指消毒剤を寄付していたが、そこで目にしたのは二重、三重のシフトをこなしながら、限界まで働いていた医療従事者たちの姿。そしてそれは現代のヒーローとも言うべき勇姿と映ったし、その勇気ある行動は、まさに「美」を体現するものだったのだ。実際のところ、そんな極端な現場で働く医療従事者たちは、疲弊し、汚れ、時にうつろにも見えた。しかし、そんな見た目にもかかわらず、危険を顧みず、他の人々を救おうとするその気概と行動こそが美しく見えたわけだ。美しさは決して造形美に限ったものではなく、その意志、あるいは行動を通じて伝わるものでもあるということだろう。そのありのままの姿を社会に提示し、人々の目に触れさせることで医療従事者への感謝と共感を生み出し、それを通じて医療従事者自身の勇気をさらに奮い立たせるよきスパイラルを生み出している。隠しているわけではないが、放っておけば公にならないであろう、しかし広く共有すべき真実にスポットを当て、ありのまま正直・誠実に伝えていく。そのための媒介としての役割をDoveは自ら担っていく覚悟を決めたのだ。
覚悟の強さと併せて、もう一方で目を見張るのがそのスピードだ。そもそものアイデアが提案された4日後にはカナダでこのキャンペーンが始まり、すぐに世界15カ国で展開している。たった4日間でキャンペーンに使用する画像の調達、素材等の製作、メディアの購入から実際に病院へ物資を届けるための救援活動の組織化を行い、各国で病院が必要とする物資が提供されている。そして各地の医療従事者の顔写真を使ったコミュニケーションが展開されると、その彼らの存在を伝える動画はあっという間に20億回以上の再生回数を記録した。コロナ禍では通常の制作ステップを踏むことさえ困難なはずだが、このキャンペーンでは医療従事者自身が直接ソーシャルメディアにアップロードした「自撮り」写真をその素材制作に活用するなど新たな取り組みもなされた。ハッシュタグで検索して画像を見つけ、DMで直接医療従事者にコンタクトを取るといったスピードにこだわるやり方が採られており、これも新たなやり方にちゅうちょしない制作側の勇気とも言える。
このキャンペーンは、テレビ、オンラインビデオ、印刷物、アウトドア、PRなどを通じて世界的に展開されたが、アメリカ、ロシア、スペイン、南アフリカでは病院と協力し、医療従事者のシフトパターンに関するデータを収集、最も混雑している病院に隣接する屋外デジタルメディアで医療従事者のシフト開始/終了時に合わせて掲出された。最前線で働く医療従事者に対し、直接的にエールを送り、励ますことを同時並行で行ったのだ。このメッセージを通じて、DoveはFacebookで349%、Twitterで1,599%のエンゲージメント、ソーシャルメディア上で99%の好感度と、かつてないほどの高いエンゲージメントを獲得。主要市場でのブランド力も向上し、米国でブランド力が10ポイント上昇、英国では5ポイント上昇、また認知度も7%(米国)、5%(英国)増加するなどビジネスにも貢献する成果を得ることになり、メインターゲットである女性たちも「ありのままの見た目」について、よりポジティブに感じるようになったことが示されている。また、近年のDOVEはプリントメディアの使い方が非常に秀逸である。「Reverse Selfie」では、非現実的な美の基準を設定するデジタル上の編集アプリがもたらすダメージを強調するために。「Courage is Beautiful」では医療従事者の勇気や行動を強調するために。Doveがキャンペーンに印刷物を選んだのはブランドの姿勢上当然のことなのかもしれない。今後はこうしたブランドの意思を反映するメディアの選択も重要な要素の一つになるだろう。
実はDoveのこれらの活動は、さかのぼること17年、2006年にカンヌライオンズのグランプリを獲得した “Evolution”キャンペーンから脈々と続いている。
Evolution


これはどこにでもいそうな一人の女性が、化粧や照明、ヘアメイク、さらには撮影画像のPC上でのレタッチやフォトショップ加工により驚くほど美しい看板モデルへと変身していく様子を1分14秒のタイムラプスフィルム(早回し映像)で表現したもの。そのように「創られた美」の基準に疑問を呈し、思い込みを覆すべきだと主張している。最後のメッセージには“美に対する認識がゆがむのは当然”というコメントが表示され、そのような容姿を目指すことが果たして正しいのかを視聴者に訴えるのだ。まさにそれは創られた価値観であり、それを理想として生きることに意味があるのか、今の自分自身により自信を持って生きていくべきではないかと問うている。同時にこういう間違った理想を提示し、強迫観念を持たせ、商売に結びつけている企業等を糾弾するスタンスも表明しているのだ。
この活動を推進するため、カナダでは「Dove Self-Esteem Workshop」を提供し、その活動資金として「Dove Self-Esteem Fund」を立ち上げている。この思いを企業全体としてしっかり推進していくためにDoveブランドを扱うユニリーバ・カナダの45万人の従業員にも電子メールによりこの動画は共有されており、その本気度が分かる形となっている。興味深いのは2022年の「Reverse Selfie」の画像と2006年の「Revolution」の画像の近似性。そう、どちらも加工された見かけのビフォー/アフターを比較して見せるという手法が採られており、実は同じDoveの各年、各エリアのキャンペーンでもこのようなギミックに遭遇するのだ。しかし、それは使い回しのアイデアということではなく、環境の変化に合わせながら同じスキームを重ねていくことで、軸となるメッセージの積み重ねを図り、効果を増しているのだと感じる。一つのブランドが、目指す世界にたどり着くためここまで長期の取り組みを継続する強い意志、そして積み重ねるアイデア創出へのエネルギーには脱帽するしかないし、実際にリアリティーを追求したこの一連のコミュニケーションを見ると、「自分に誠実・正直であること」が情報の届け方や広がり方、そして新たなユーザーとの出会いにいかに大切であるかが分かるだろう。今回のLIONS GOOD NEWS2023のサイト制作においては、さまざまなNPOの方々にアンケート協力してもらったが、6割を超えるNPOで「中長期的なコミュニケーションの活動計画が立てられていない」と回答があり、これは一般の企業でも同じことがいえるだろう。ここで取り上げたDoveの「Self-Esteem Project」は規模の大小や取り組み期間の長短の違いはさておき、一つの目指すべき世界を追求する行動に打って出るときの大いなる参考となるだろう。
最後にDoveのこのプロジェクトの中から特に気に入っているケースを紹介したい。オンラインが当たり前の世界で、自身の子供たちの日常の出会いに親が介入すべきタイミングについて、最新のテクノロジーを用いて気付きを提示してくれる「Toxic Influence」だ。
Toxic Influence


これはオンライン上の美容系インフルエンサーによる有害なアドバイスに10代の女性たちが誘導され、同じく自尊心の危機を招いてしまうことへの取り組み。ベースとなるDoveの思いや目的は常に一緒だ。調査では92%の少女が自分のいまの見た目を変えたいと考えているらしく、そのうち2人に1人がこういった美容系のアドバイスをするインフルエンサーをフォローしているという。アドバイスをくれるとはいえ、その「まやかしの美」に近づけるための製品やサービスを売りつけることが目的なため、そもそもは現状否定から入るのが定番なわけだ。「いまのままでいいのですか?もっとこうしたら美しくなれますよ!」と常に問いかけてくる。実はこういった有害な情報にさらされていることを、これら少女の両親は知らないことが多い。自身もソーシャルメディアの情報を重宝しているし、娘もきっと有益な情報をそこから得ているだろうと勝手に思い込んでいるのだ。そのため親からの注意もなく、少女たちも自分がどんな危険にさらされているのかを分からないでいる。当然、親にも相談はしない。これがリアルな場であれば、街中で娘が怪しげなキャッチに捕まりなにか言い寄られていれば即座に助け舟を出したくなるのが親だろう。しかし、それはまったく見えないオンラインの世界で長い期間、継続して展開されているのだ。
そこでこの状態を白日の下にさらすべく、このような状況を象徴的に理解してもらうため、ある動画を制作した。それは少女たちが毎日聞いている有害なインフルエンサーの言葉をそっくりそのまま、少女たちが世界で最も信頼している人、つまり当の母親の口からディープフェイク技術を用いて語らせるというもの。ネット上で娘が聞いている言葉をもし自分が語っていたとしたらその母親はどう感じるのか。問題ない発言であればいいが、それがいかにもネガティブで、娘の自信をなくさせるような物言いだったら・・・。そしてその映像を見た母親たちは「私はこんなことを言わない。こんなひどいアドバイスをしない」とすぐさま否定する、あるいはショックで動けなくなる母親も。その反応までも捉えた映像は実にショッキングだ。
この仕掛けの背景となるのが、ユーザー調査の結果だ。実は親と娘が使用しているオンラインコンテンツの間にはかなりの距離、あるいは断絶といってもいい状況があるということ。親はうまく使えていても、子供たちにはその情報の真偽を測る経験が不足しているのは間違いない。そしてさらには40%の母親がその娘がフォローしているインフルエンサーの名前を挙げることができない、すなわち自分の娘が誰をフォローしているのかさえ知らないということが判明した。この数字を突きつけられれば、すべての親は共通して「自分の娘に有害な情報を聞かせるわけにはいかない」という意識を持つはず。しかし、それはソーシャルメディア上では日常茶飯事となっており、なにかのきっかけがなければ気付けないことでもあるのだ。
この動画が公開されることで、日常的にソーシャルメディアで有害なトレンドやインフルエンサーの誘導的な語りがあふれていること、またそれに対して無防備に子供たちが向き合い、その情報に影響されていることが知らされた。しかし、それは親だけの問題でもなく、また彼らが恥じたり、子供に十分なことをしていないと非難されたりすることがないようにするため、Doveはその後の親子の会話を促進することもサポートしている。その後の調査では59%の女子がこういったソーシャルメディア上の美容インフルエンサーのフォローを解除した後、とても気分が良くなったという結果が出ており、親が娘のフィードをデトックスする手助けをするように呼びかけている。
このキャンペーンは、2022年4月に米国、カナダ、英国、ブラジルで開始され、その後、ラテンアメリカ、EU、南アフリカの他の14のエリアで展開中だが、米国だけでも16億回のインプレッションを獲得し、99%のキャンペーン好感度を得ている。
各種ソーシャルメディアの使用が当たり前となったいま、その中で自己承認欲求が高まり、投稿するためだけに人の関心を買うような行動が各所で増えてから久しい。本来はあるがままの自分を見てもらうという自己承認欲求だったはずが、虚構の世界での自分を自ら創り上げ、演出し、その存在をあたかも自分の化身のようにマネジメントするようになっている。その結果、自分自身が創り上げた虚像と現在の自分とのギャップに勝手に打ちのめされ、自信を失ってしまうという事象に陥る人々が急増している。そもそもではあるが、虚飾で彩られた自分のまま、他の人々とコミュニケーションを取ることに果たしてメリットはあるのだろうか。それは外見であれ、知識であれ、いずれ真実が明かされていく残酷な行程を踏むことになるだろう。またそれが怖くてリアルなコミュニケーションに歩を進められない人々は多く、再びバーチャルな世界に引きこもってしまうという悪循環が見えてきそうだ。
しかし、これにあらがうように写真共有ソーシャルメディア(交流サイト)「BeReal(ビーリアル)」が米国の若者を中心に世界中でダウンロード数を伸ばしている。これは米メタの「インスタグラム」のような見栄えをよくするフィルター機能がなく、ランダムなタイミングで撮った日常の「映えない」がリアルな自分をさらけ出し、親しい仲間内に共有するというソーシャルメディアだ。このサービスの成否はまだ先に語られることとなろうが、われわれも含めて、まずは自分を正直に開くこと、それがさまざまな出会いや新たな可能性に触れるチャンスをつかむことにつながるかもしれないことを知るべきだろう。それがこれからの時代を生き抜くための一つの突破口なのかもしれない。

TRUTH
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真実の強さ。