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「LIONS GOOD NEWS」はカンヌライオンズ日本事務局のプロジェクトとして、フェスティバルが初めて中止となった2020年にスタートしました。コンセプトは「NEW THINGS CAN COME FROM HISTORY」。コロナ禍以降で大きく変化し続けるコミュニケーション環境、そこで生まれた課題を洗い出し、カンヌライオンズの膨大なアーカイブを活用しながら新しいやり方やヒントを提示しています。今回の「LIONS GOOD NEWS 2024」では現在のコミュニケーション環境に対する調査を通じて出てきた課題「出会いがない」ことに対するアプローチです。“広告はラブレター” という言葉がありますが、手紙がメールなどに置き換わったように、出会い方も時代とともに変化するものです。どうやったら新しい出会いをつくれるのか?カンヌライオンズの過去・現在の素晴らしい作品に触れながら、あなたなりの新しい出会い方を見つけてください。

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LIONS GOOD NEWS

コロナ禍・ウィズコロナというタイミングで直面したコミュニケーション課題

コロナ禍においてWWFは2022年10月に『Living Planet Report 2022』を発表しています。このレポートでは自然と生物多様性の健全性を測る数値が過去約50年間で69%減少していることを報告しています。こういった地球規模での「環境課題の解決」にはコミュニケーションのチカラが常に求められています。コミュニケーションの課題として感じるのは、科学的知見やデータに基づいた少し複雑な情報を多くの方々にどう適切に伝えていくか、ということ。環境課題は、多くのアクターや多くのステークホルダーが関わりますが、関係する人の数が増えるほど、それぞれの視点や思惑での言動や状況が絡み合ってきます。また、システム思考に代表されるように、複雑な環境課題は一つのシステムとして捉え、俯瞰(ふかん)した視点でアプローチしなければ、一つの部分最適での解決が結局は別の部分に課題を生み出してしまい、全体最適化に至ることができないという負のループに陥りがちです。そしてその説明においても複雑で難しいから“一言では言えない”となってしまうと、コミュニケーションにおいても、誰かに話す際にちゅうちょが生まれたり、正確を期すため根拠を盛り込み過ぎることで長文になってしまうなどもよくあります。情報の送り手の多様な意図、情報の受け取り手の多様な状況、この間を正確さだけでなく、どう“適切”につなぐか、ここに神経を注いでいます。

これらの課題に取り組むとき、まずわれわれが大切にしているのは「Theory of Change」といわれる社会課題解決の手法です。状況を俯瞰して見るため、ステークホルダーマッピングといわれる手法で、その環境課題にいったいどのような人たちが関わっているのかを書き出し、関係性を図示化していきます。つぎに直接ヒアリングすること。関わっている人たちがどんな状況で何を考えていて何をしたいと思うのか、そのインサイトを探るのです。そしてその後の具体的な戦略づくりでは、レバレッジポイントはどこか、ボトルネックはどこか、情報の送り手と受け手がエンゲージするポイントはどこかを研ぎ澄ましていきます。最後に工夫を凝らすのがクリエイティブジャンプです。このプロセスを行ったり来たりしながら、もしくはプロトタイプをまずは実行し、コミュニケーション施策を徐々に更新しながら進めていきます。このようなステップを踏みながら、よくある一般的で曖昧な言葉で放置せず、解像度を高めていきます。

次の段階では、「SAVE NATURE PLEASE」というWWFが推進している環境保全のための行動変容フレームワークを用います(https://www.wwf.or.jp/campaign/snp/)。前述のロジカルな解像度と同様、またはそれ以上に重要視しているのがエグゼキューションで、その施策が笑顔をつくれるか、深く感動させられるか、誰かに話したくなるかなど、最終的なアウトプットの表現クオリティーの管理が、伝わる伝わらないを大きく左右すると考えています。WWFが注目しているのは、行動科学に基づく人々の意識変化や行動変容です。環境課題は人々の意識や行動によって発生する一方で、解決することができるのもまた人々の意識や行動によります。フレームワークの中に「NATURE」の六つの頭文字を集めたエグゼキューションで考慮すべき行動原則があるのですが、例えば「Normal」では人は所属するコミュニティーでの社会的アイデンティティーが肝要であり、そのコミュニティー内での規範化を進めるために相互支援を行い行動の拡散を行うということ。例えば「Rewarding」では人はインセンティブとディスインセンティブに影響されがちであり、損失回避をするためには積極的に行動するということなど、多くのTIPSや成功事例に当てはめながら、表現技術をブラッシュアップしています。

こういった指針やフレームワークに加えて、誰と仕事をするのかも今後ますます重要になってくると思います。より大きな社会的インパクトを生み出すには、NGO/NPOも組織内部だけのリソースにとどまらず、共感いただける外部との協働が不可欠でしょう。部分最適に陥らずに、全体最適を考えられるクリエイティブな協力者を見つけ出さなくてはいけません。逆にそういった方々にも自分たちを見つけていただき、関心を持っていただけるように、われわれが何を考えていて何をしたいのかの発信は常にアップデートしていきたいと考えています。

このような方針に基づき、WWFジャパンが近年取り組んでいるのが、ペットとして利用され絶滅の危機にさらされる野生動物をゼロにするキャンペーンです(https://www.wwf.or.jp/campaign/uranokao)。野生動物のペット飼育についての意識調査を行った結果、絶滅や密猟や密輸などのリスクがあることをよく知らないという回答が68%もありました。これらのリスクがある野生動物を飼いたいという層を対象に、動物園の飼育員さんが野生の生態や習性など飼育の困難さやリスクを解説する動画を作成、拡散によって意識変容を目指す活動を始めたばかりですが、どんなにかわいくてもペットに適さない動物がいることを知ってほしいですし、その投げかけには多くの賛同の声が寄せられています。

いま世の中で注目すべき動き、そしてコミュニケーション活動の実践へ

いまキーワードとして注目しているのが「ネイチャー・ポジティブ」です。ニュースでは、カーボンニュートラルやサステナビリティがあらゆる方面から発信されていますが、脱炭素社会の実現に向けて、気候変動に対する国の責任と目標値が明確になった中、脱炭素への具体的な取り組みを進めるのと並行して、次は生物多様性が世界のテーマとなっています。冒頭お話ししたように、過去50年で生物多様性の喪失が69%という苦境を乗り越えるため、2030年までにそのカーブを反転し回復に転じるための動きが始まっています。2022年12月に開催された生物多様性条約第15回締約国会議においては、世界中の陸域・陸水域・海域の少なくとも30%を保護区にすることなどの決定が採択されましたが、政治・経済・金融の分野、つまりは市民の暮らしに関わる分野においても、各国が具体的な目標を掲げ、それに向けた取り組みがまさにいま始まろうとしているところです。この「ネイチャー・ポジティブ」の動きにぜひ注目していただきたいと思います。

今回このサイトにて紹介されているような各所で成功している事例研究は弊会のコミュニケーションに関わるスタッフも常に行っております。グローバルで評価された各アワードの受賞事例には、社会課題解決に大きく寄与したクリエイティブアイデアが豊富に詰まっており、とても勉強になります。またスタッフが各自でアドミュージアムなどに通い、その事例解説セミナーに参加することでなぜ成果につながったのか、なぜ心を動かすのか、を深掘りして習得すべく研さんを積んでいます。気を付けているのは、自分が取り組んでいるイシュー領域に限定せず、多くの事例を、あまり考えずとにかく量を見ることと思います。本サイトではOpen AI「ChatGPT」を使用した「じゃない方検索」という体験もできますが、昨今のフィルターバブルの状況回避を無意識にも意識的にも実行して新しい出会いをつくる素晴らしい取り組みと思います。名著である「アイデアのつくり方」(著者:ジェームス・W・ヤング、出版:CCCメディアハウス)にもありますが、新しいアイデアは既存のアイデアの組み合わせであり、最初にやるべきことはありとあらゆる方面の情報の収集から始まるとしています。アイデアの確度や質を実際的に上げていくには、本サイトで紹介されている一見自分たちには関係ないかもしれないと思う事例にも多数触れ、深く読み解き、なぜ課題解決へのインパクトにつながっているのかを知ること、そして自身の偏った見方に陥らずに、ウェルカムでオープンな心持ちでいることが、とても大切だと思います。

WWF JAPAN(世界自然保護基金ジャパン)

WWFは100カ国以上で活動している環境保全団体で、1961年にスイスで設立されました。人と自然が調和して生きられる未来を目指して、サステナブルな社会の実現を推し進めています。急激に失われつつある生物多様性の豊かさの回復と、地球温暖化防止のための脱炭素社会の実現に向けて、希少な野生生物の保全や、持続可能な生産と消費の促進を行っています。

WWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン) ブランドコミュニケーション室 室長

渡辺 友則

在学中は国際関係学、コミュニケーション学を専攻。卒業後は広告会社に勤務し、広報、マーケティング、プロモーション業務を経て、コピーライター兼CMプランナーとして活躍。2007年セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンでコミュニケーションズ部長、2015年WWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)に入職しブランドコミュニケーション室長に就任。現在、地球環境保全の意識変容・行動変容の推進に取り組んでいる。

「LIONS GOOD NEWS 2023」を検索してみた。そこで、いかに私自身が、これまでの価値観、旧来型のバイアスに引きずられながら、古い思考から物事をとらえているかにハッとさせられた。つまり、このサイトでNPOを知る、各種コミュニケーションの事例を知る、はたまたインターネットで関連の調べ物をするにしても、それぞれの答えに行き着くにはある程度の段取りが必要で、その苦労を覚悟しなければならない。そのため、常にもっと合理的に、もっと効率的に、という指標がちらつき、いかに素早く答えに辿り着けるかが現在では重要になっている。しかし、このショートカットを良しとする行動へのアンチテーゼとなるのが、このサイトで体験できる「じゃない方検索」ではなかろうか。少し遠回りしながらも、敢えて想定内の着地点をズラし、そのセレンディピティ的な情報の出会いをもたらすことで、ある種の発見を促してくれる体験はこれまでの指標の転換を予感させる。正解を探し求めながらも、ふと周辺を散策するような、そんな遊びを排除する潮流が、せっかくの知的好奇心溢れる機会でもあるネットサーフィンをつまらないものにし、そこから生まれる創造性を阻害してきたのだと思う。そしてそれは、しばらくの間、ちまたで繰り返し言われてきたイノベーションを生み出すきっかけを潰してしまっていたのかもしれない。

2007年頃から現在に至るまで、いわゆるGAFA時代はアルゴリズムの最適化による極端なショートカットが正義とされ、一方でフィルターバブルによる知識のたこつぼ化という弊害が知らず知らず発生していたように思う。しかし、ChatGPTの出現でこれらの様相は一変するだろう。最適解へのショートカット、超合理的解決のための「AといえばB」といった定型の浸透が、人々の想像力を衰えさせたのは間違いない。正解へ効率的に導くその方程式を、友人のアーティストは「因果」という言葉で指摘した。原因と結果というワンセットが、その強固な関係性を世の中に「常識」という形で突きつけ、無理強いしている。そのような既成概念の元となる常識、あるいは悪しき慣習を、このChatGPTを活用した「じゃない方検索」は見事に壊して見せてくれる。実際に操作してみると、そこで検索した言葉とは異なる回答が想像していた単なる反対語を超えており、その斜め上からの目線には良い意味で期待を裏切られる。さらによくよく見れば、その検索結果が確かに「じゃない方」に適合するよね、と時間をおいて気づかされることも。数回、その操作を繰り返し、その都度、異なる結果が続いたとき、これはいま流行の量子力学的に相通ずるところがあるなと感じた。あれも正解、これも正解、元の答えはひとつのはずなのに姿形を変え同時に複数の場所に存在するという矛盾が成立してしまっているからだ。まさに「因果」という、ある意味わかりやすい関係性が終焉を迎える時代となったのかも知れない。ひとつだけの正解を探していた時代から、人それぞれの答えが違う時代、いわば支配者のいない、すべての人たちの独立性が担保される「新しい民主主義の始まり」を感じさせるというと言い過ぎだろうか。100人100通りの答え、100の真実、100の考え方があり、それぞれ全員正しく、またどの答えも受容され尊重されるべき時代なのだと思う。それは我々Forbesが提示する「インクルーシブ・キャピタリズム」の世界にも通ずるものと言えよう。

もうひとつの見方として、ChatGPTはアーティスト的思考、あるいは分散的視点を与えてくれるツールでもある。先のも述べたが、通常の人間のイマジネーションは、自分の経験などそれまでに積み重ねてきた知識のリニア、直線上にあるものに留まる。その通常の想像力を超えるのがクリエーターやアーティストの能力であり、おいそれとそれを身につけることは叶わない。但し、これまでの当たり前の積み重ねの先に解はないと気づいた一部のビジネスリーダーは、この思考をなんとか手に入れようとアートに傾注し、その一端でも掴もうと努力している。アーティストの思考は、地平に居ては見えない時空で紡ぎ出され、その閃きはまさに未来を掴むような感覚に近いのだと思う。しかしChatGPTはこの感覚を恐らくすべての人に提供してくれるはずで、これにより様々な領域での進化が加速していくこととなろう。先の友人の言葉を借りれば、「因果」から「縁起」、すなわち物事の進化の通常フローに何かしらの見えない力が加わり、まったく別のものが生まれるという偶発性が高まる気がする。そしてそれは既存の社会的ルールや正答とされていた合理性を破壊し、カオス化へ導くこととなる。これまで何事も地道にビルドアップしていくというプロセスを踏んできた我々が、アートの秘める破壊と創造といった世界を体験することができるのがこのChatGPTによって拓かれる世界なのだと思う。

「じゃない方」は反目する世界を顕在化して見せるものではないだろう。今まで言語性に囚われすぎてしまっていた我々の意識を転換し、新たな思考への脱却を手伝ってくれるものなのだ。言葉が持つある種の古さ、例えばイノベーションということさえ、いまは古く感じてしまうのはなぜか。これまで使い続けられてきた多くの言葉が、その歴史と共に古さを含蓄してしまっている気がする。これが言霊となり、強い存在となり、主張してくる。その言語性を超え、何か新たなものが生まれるとき、古い言葉を超える新たな言語が生まれるのだが、この「じゃない方検索」でもハッとする言葉に出会えるのはワクワクする感覚をもたらしてくれる。それはあたかも、ふたつの相まみえないであろう言葉を敢えて組み合わせて新しい概念を生み出すようなことに近い。コピーライターが用いそうな、異種の言葉の組み合わせで新しい感覚を生み出すという取り組みに近く、言葉が持つ世界感を超えるタイムマシンとも言えるかも知れない。

このサイトが貢献しようとするNPOの話に戻ると、やはり各所が悩む、新たな支援者との繋がりはこれまでのやり方ではなかなか苦境を打破できないと思う。現世界では、資本主義の下、儲かるか儲からないかの指標が長らく続いた。NPOも同様で、儲かるということではないが、資金を集め、成果を示すことが求められたはずだ。しかしこれからはその指標も変わっていくはず。これからのバーチャル世界とリアルの混在する中で、リアル世界である種の決めつけ、バイアスがかかっていたこれらNPOに対してもそのイメージを一新する機会が多々あるはずだ。これまでの物理的世界では、例えば年齢や見かけなどでアンコンシャスなバイアスが生じる。そういった物理的な要素が排除されるバーチャル空間ではそれぞれが保有する能力だけがアピールされるため、その基準における純粋な評価が得られるはず。これを皮切りにインクルーシブ的な動きもバーチャル空間では加速し、それが当たり前になる。これまでの思考の延長線上でアドバンテージを得られなかったマイノリティの方々も含めて、自分を発露し生きやすい場にもなるのではないだろうか。今はその世界ができていく前段階での地ならし的時期であり、NPOもこれからはその世界をよくするという意志が純粋に評価され、共感を拡げ、その存在だけで美しいと思われるのではないか。尺度の変わった中で、すべてのNPOの存在が是認されることになるはず。若い世代はバーチャル中心で活きてきた人も多く、物理的世界とは異なる目線が基軸となっていることもあり、彼らが消費者から物理的世界における生産者となったときにはさらに大きな変化が生じるだろう。儲けなきゃという指標がなくなれば、思想や行動に対するワクワク感、期待感が重要になる。豊かさ、ウェルビーイング、サステナブルといった指標が浮上し、重要指標となる。ここでそれらを標榜してきたNPOがきっちりプレゼンスを上げていくのは期待したいところだ。

最後に、ChatGPTは日本的な世界で特に活きる気がしている。家屋に重ねてイメージしてみると、西洋のそれはカッチリと外と中を区切る設計が基本だが、日本では縁側や土間といった外との境界が曖昧であり、シームレスな拡がりを採り入れる工夫がある。外的世界との境界の曖昧さをうまく採り入れ行き来することでその変化を楽しむ土壌があり、その感覚はChatGPTが提示する、自身の解の少し先にあるものを十分に理解するに役立つ気がするのだ。例えばこの「じゃない方検索」で提示される、自分が知り得なかったNPOの存在を知り、理解しようとするプロセスにも、そんなことを感じることができそうだ。物理的な空間では伝わりづらい領域を、精神世界で受け止めるというシチュエーションでは日本人には優位性があるはずで、その意味でもここで紡ぎ出される偶発性は体験するに値するし、またそんな機会をNPOの方々も「新たな出会い作る」チャンスとして捉えてみてはどうだろうか。

本LIONS GOOD NEWS2023のコンテンツや提供される「じゃない方検索」体験では、先のChatGPTの活用を通じて、自分が見えなかった、もしくは言語化できなかった領域にアクセスできるようになり、想像力を超える「創動力」を手にすることができるのではないだろうか。これはこれまでのあらゆる「出会い」を再定義しうる体験と言えるだろう。

Forbes JAPAN 執行役員 Web編集長

谷本 有香

証券会社、Bloomberg TVで金融経済アンカー後、米MBA取得。日経CNBCキャスター、同社初女性コメンテーター。オードリー・タン台湾デジタル担当大臣、トニー・ブレア元英首相、アップル共同創業者スティーブ・ウォズニアック等、3,000人超にインタビュー。2022年1月1日より現職。企業取締役、政府系イノベーション大賞の審査員等。立教大学大学院 21世紀社会デザイン研究所 研究員・兼務講師。

カンヌライオンズのクリエイターやぼくたちエディターも、誰かに何かを伝えようとする人々は常に「じゃない方」を考えている。「A=B」という常識やストーリーがあるときに、ならばなぜ「A=C」にはならなかったのか、と問うてみるのだ。「ダイヤモンドは美しい」という前提に対して、「ダイヤモンドを美しくないと捉える感性はありえるだろうか」と考えてみる(映画『ブラッド・ダイヤモンド』を思い出すかもしれない)。「地球は大切だ」という前提に対して、宇宙人なら、この地球を大切だと思うだろうかと想起してみる(SFの名作を狩猟すればいくらでもインスピレーションが出てくるだろう)。

こうした態度を「コントラリアン」という。その字義どおりの逆張り投資家として世界に名を馳せたピーター・ティールに言わせれば、それこそが「隠れた真実」を白日のもとに晒す問いとなる。誰もがAだと思っているけれど真実はBである、といった隠れた真実を見つけることは、投資や起業においては「ゼロ・トゥ・ワン」を生み出す起爆剤となり、人々の認知という点では、まさに文明レベルでの大きなパラダイムシフトを起こす決定的なメッセージとなり得る。だから、「じゃない方」の潜在的な破壊力は凄まじく、使い方を間違えれば、すぐに「陰謀論」を召喚してしまうことにもなる。例えば新しいテクノロジーがどれもそうであるように、「じゃない方」もまた、諸刃の剣なのだ。

この「LIONS GOOD NEWS 2023」で向き合ってきた100を超えるNPOは、いわば社会の見過ごされてきた真実に向き合い、それをぼくたちに伝えてくれる存在だ。だが多くの団体が「狙った人に情報が届かない、そのため新たな支援者に出会えない」という課題に直面しているという。だとすれば問われているのは、その真実を受け取るぼくたちの側が、いかに既存の常識やバイアスから自由になり、「じゃない方」へと歩み出せるかだ。そこで生み出される「新たな出会い」をコンセプトにしたこのサイトでは、OpenAIが開発した会話型AIであるChatGPTを使った「じゃない方検索」が実装されている。

膨大なテキストデータを取り込んだ大規模言語モデル(LLM)と言われるこのAIは、直前までの言葉の連なりを受けて最もふさわしい次の一語をつなげていく。その性能はいまや驚くべきものである一方で、参照するのは人類が残した既存のデータの寄せ集めであり、それを超えるものではない、クリエイティブではないといった声や、中間値としての最適解、つまりは中庸なる回答しか出してこないといった指摘もある。だが、本当にそうだろうか?(コントラリアンの出番だ!)。

最新のLLMのひとつであるGPT-4が訓練に使ったパラメーター数は実に100兆に上り、昨今のジェネレーティブAI(生成的人工知能)の興隆は、汎用人工知能の実現や、2045年に到来すると言われていたシンギュラリティ(技術的特異点)の前倒しすらも予感させる。だが最近になってOpenAIのCEOサム・アルトマンは「こうした巨大なモデルを用いる時代は終わりつつある」のだと公言している。その内実は明らかにされていないものの、量の時代を経て、いまや「人間のフィードバックを伴う強化学習」こそがAIの質をさらに上げていくための可能性のひとつとして挙げられているのだ。

だとすれば、敢えて「じゃない方」をAIに提示させ、それについてさらにぼくたち一人ひとりが「じゃない」というフィードバックを返すことにこそ、これからのAI開発の真の活路が見出せそうだ。そんな大言壮語を、と思われるかもしれない。でもこの「LIONS GOOD NEWS 2023」で実装された「じゃない方検索」が示唆するポテンシャルは、まさにキャンペーンがカンヌライオンズやその受賞作品を通して伝えようとする、人間社会にとってのこれからの大切な価値観、つまり地球規模での多様性や複数性を包摂するあり方を、最も先鋭的なギミックで提示していると思うのだ。

いま『WIRED』が注目しているのが、「Plurality(プルラリティ)」という考え方だ。AIの進化が一方向へと指数級数的に収束していくシンギュラリティから、複数のものを多元的に捉え、複数性をそのまま社会の仕組みとしてインストールするプルラリティへと、社会のOSは大きく変わろうとしている(皆さん、Web3って覚えていますか?)。それを先取りするかのように、この「LIONS GOOD NEWS 2023」で挙げられている7つのキーワードは、どれもSingular(単数性)ではなくPlural(複数性)を加速させるものとなっている。そこでは「盛る」ことなく誰もがありのままの自分を表現し(Honesty)、隠れた真実を指摘し(Truth)、記憶や歴史を掘り起こし(Rememberance)、一人ひとりと真摯に向き合い(Esteem)、逆転発想の創意工夫を凝らし(Artifice)、想像力こそを価値の源泉として(Imagination)、想定外を楽しむ(Unexpected Meeting)。これらは現代におけるコミュニケーションの課題を踏まえた情報の届け方や出会いの生み出し方のエッセンスとしてまとめられている。でも、なんてことはない、これは人間に限らず、ますます賢くなるAIとどのようにコミュニケーションをし、新たなアウトプットを生み出していくかについての貴重な指南としても読める。こうして人間もAIもあらゆる生物や地球も等しく包摂された社会こそが、まさにプルラリティなのだ。

『WIRED』日本版編集長

松島 倫明

『WIRED』日本版編集長。内閣府ムーンショットアンバサダー。NHK出版学芸図書編集部編集長を経て2018年より現職。21_21 DESIGN SIGHT企画展「2121年 Futures In-Sight」展示ディレクター。訳書に『ノヴァセン』(ジェームズ・ラヴロック)がある。東京出身、鎌倉在住。

A large-scale survey was conducted to assess the landscape of contemporary communication.

The central question posed is, “How can we create opportunities for new meetings?”

LIONS GOOD NEWS 2024 is designed as a hub to enable these fresh meetings.